切れっ切れのいい女/レズビアン・乃亜

年の差レズビアン長編

レズビアン官能小説長編「年の差レズビアン・ディープ・ラブ」(第49話)

“乃亜、元気かい? 会いたいんだ”

 別れた男は佐藤といった。佐藤は別れた後も何度か電話で復縁を迫ってきた。
電話をかけてこないように伝えておいたプライベートの電話にかけてくる佐藤を、乃亜はしばらく無視していたが、時間帯を問わず時には深夜や早朝にもかけてくるようになってすぐ着信を拒否した。それからしばらく電話に悩まされることはなかったが、ある日プライベートメールに佐藤のアドレスからメールが届いた。メールを開いて乃亜は佐藤という男がクズに見えて笑った。
 メールには画像が一枚添付されていた。中身は佐藤とのセックスの最中の一コマだった。画質の粗さから動画の一コマのように見えた。佐藤は乃亜に何度かハメ撮りがしたいと求めてきたが、乃亜は性に合わないとその都度拒んできた。おそらくそれでも撮りたがった佐藤が隠し撮りをしたものと思われた。画像は騎乗位で佐藤の上にまたがっているシーンで、乃亜は思わず吹き出した。

“別れる前に一回やらせてくれよ、頼む!”

 乃亜が佐藤に初めて別れを切り出した日、佐藤は何度も復縁を迫ってきた。謝るから許してくれと何度も訴え、涙声までみせた後、取り付く島もない乃亜の態度にふっきれたようにそう言い放った。乃亜はすぐに電話を切ったがあの日も笑った。クズだと思った。

 乃亜の3年ルールは一方的で身勝手だと男たちを怒らせた。期限付きの恋愛など聞いたことがないと怒声を上げて暴れた男もいた。佐藤は三人目だったが、狼狽えたような声であと一年待ってくれと訴えてきた。
 乃亜は決して期日を延ばすことはしなかった。ただの一日でも延ばせば、ルールでなくなってしまう。乃亜にとっての3年ルールは自分に課したもので、基本的とか原則的といった曖昧な解釈を交えるものではなく、その恋愛を一日一日まっとうするための“ポジティブに向き合うべきルール”だった。だから期日を縮めたり延ばすことはしなかった。
 3年を長いと思うか短いと思うかは相手によったが、乃亜には十分過ぎる期間に思えた。何にしても仕事と男には期限が必要だった。

 仕事を終えた乃亜は、美由紀と待ち合わせをするカフェに車を走らせていた。
 美由紀にはひと足先に、昼休憩を見計らってメールで会いたいと連絡しておいた。カフェは美由紀の家から徒歩5分くらいの場所にあった。

“ワイルドベリー(ケーキ屋)で検索すると隣に「BB」ってカフェがあるから、そこで会おうか”
“6時半少し回るかも。aisiteru♪”

 BBというカフェはすぐに分かった。洋風の間口にBBのロゴが入ったガラス扉、それを青みがかった淡いグレーのレンガでぐるっと一周囲んだおしゃれな店がまえだった。

「いらっしゃいませ」

 店内は木材で作られたカウンター、テーブルで統一されていて、木の香りがした。壁は所々にブリジッド・バルドーのポスターやタペストリーが貼られていて、店主の趣味がうかがえた。
 乃亜は一番奥の角の席でスマホをいじっている美由紀の姿を見つけて、歩いて行った。

「美由紀、お待たせ」
「え、うっそ」
「どう? イメチェンしてみたんだ」
「印象変わった。かっこよくなったな」
「マジか。だろう?うちのお店に新入りが入って、ショートボブが似合うっていうからやってもらったんだ。」
「似合ってる。色もいいし、前より強気な印象でタイプ」
「だろう? 惚れ直した?」
「やばい、めっちゃタイプ」
「だろう? キスしようぜ」

 落ち着いた濃い目のブラウンカラーのショートボブに、ウェットなアレンジをしたら美由紀に好評だった。それにやり過ぎくらいの赤いリップが美由紀好みだったから、さっき信号待ちでペンのリップで輪郭もくっきり際立たせた。
 席は美由紀の隣に座った。あまりくっつくと美由紀が恥ずかしがるから、隣に座るときは少し距離とるのが二人の暗黙のルールだった。
 ウィンクをしてから少し大げさに唇をすぼめると、美由紀がキスをしてくれた。美由紀のキスには、すべての災いと困難を吹き飛ばす魔力があった。

「ご注文はお決まりですか?」
「アイスラテ」

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