レズビアン官能小説長編「年の差レズビアン・ディープ・ラブ」(第36話)
「あれ? 今日はまたずいぶん印象が違いますね。気づかなかった。その路線は初めてだ。しかし相変わらずきれいだね」
「あは、ありがとう」
ワイルドベリーのオーナー風間一郎は“アヤカ”を褒めた。
髪をアップにして口紅を少し強めの赤にして、ファッション雑誌のコーデを真似て肩あきワンピにハイヒールを履いたらテンションが上がった。
瞼はいつもより軽く、世界が変わって見える。
アヤカは風間にウィンクをして見せ、それからショーケースを覗き込んで、店の一押しケーキ「ワイルドベリータルト」と、モンブラン、オーソドックスにイチゴのショートケーキ、それにベリーのせのレアチーズケーキをそれぞれ二つずつ注文した。
「冠婚葬祭か何かでお出かけですか」
「ただの気分転換よ」
ワイルドベリーはアヤカのお気に入りのケーキ屋で、その名前通りベリー系のケーキをメインに扱っていて、洋酒、ベリー、シロップを組み合わせたソースがかかった酸味のきいたケーキが多い。
ワイルドベリータルトがお店の一押しだったが、アヤカはフルーツがたっぷりのった日替わりのアレンジタルトがお気に入りである。
「今日のアレンジタルトは好みじゃなかった?」
「私、メロンが食べられないの。苦手なのよね、あの何というか甘味も酸味も中途半端で独特のくさみもダメなの」
「あー、そうだった。そういえば前に一度聞いたような。ごめんなさい」
話した記憶がなかったが、とにかく今日のアレンジタルトはアヤカの目には留まらなかった。
「メロンがない日にまた頂くわ。保冷剤、お願いしてもいい?少し走るの」
風間は手を上げてそれに応じると、奥で保冷剤を入れてくれているようだった。
アヤカはケーキの箱を受け取るともう一度ウィンクをして見せ、足早に店を後にした。
ワイルドベリーは自宅からエリーゼへ向かう方角とは真逆にあったため、四十分位はかかりそうだなと思った。
途中、帰宅ラッシュの渋滞に巻き込まれそうな予感がしていつもより少しアクセルを踏んだが、ヒールが邪魔をしてこんなことなら運転用に替えのサンダルを持ってくればよかったとちょっと後悔した。
道が混雑し始めてアヤカは少しいらっとした。
一本電話を入れようか迷ったが、ダサい気がしてやめた。
エリーゼのお店に到着したのは、ワイルドベリーを出て一時間と少し経ってからだった。
時計は五時二十三分を指している。
駐車場に止めると“彩佳の車”に気づいたのか店から綾子が出てきて挨拶をしてくれる。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは。先日はどうもありがとうございます。ブラジャーもショーツもぴったりで、色あいも良くてとっても気に入りました」
「あ、よかった」
綾子はアヤカの容姿に少し目を見張るような表情を見せたが、まずは店内を目指す。
中に入ると奥の事務デスクの前で、由美子が電話をしている姿が見えた。
アヤカはほっと胸を撫でおろして振り返って綾子にケーキを渡す。
「これ、私のおすすめのケーキ。さっき買って来たんです。おいしいので、ぜひ皆さんで召し上がって下さい」
「ありがとうございます。見てもいいですか」