レズビアン官能小説長編「年の差レズビアン・ディープ・ラブ」(第10話)
「あれ? 大嶋さんじゃない?」
ふいに声をかけられて振り返ると、英語の地域コミュニティでいっしょのメンバーだった土屋亜沙美が立っていた。
亜沙美は美智代より十歳年下で、カメラ好きのいわゆるカメラ女子だった。風景や動物、植物を撮るのがメインで、休日はそのために遠方まで出かけるのだと言っていた。
緩めのカールをかけた栗色のミディアムヘアと切れ長の目、それにアーチを意識した濃い眉が印象的で目をぎゅっと見開いて笑う癖がある。
美智代は、亜沙美がどうしてここにいるのかと尋ねようとしたが、亜沙美の顔を見てすべてを悟った。
「やっぱりそうだ。大嶋さんじゃない」
「あ、そうだったんですか。私やめさせていただきますね。ごめんなさい」
美智代は亜沙美にきっぱりそう告げると、背を向けて歩き始めた。
「え、え。ちょっと待って下さいよ。私、誰にも言いませんよ。ね、大嶋さん」
美智代は亜沙美に嫌いとか苦手だとか、そうした変な悪感情は抱いていなかったが、場の状況が最悪だと思った。さすがにこれはまずいと思った。
ネットで、カメラのモデル募集サイトの掲示板に、美智代が自ら書き込んだことがことの発端だった。
静物や風景ではなく女性のヌードをメインに撮りたがるカメラマンが、そうしたサイトを利用してヌードモデルを探した。モデル志願者は希望のギャラを提示して、カメラマンとの間で合意が成立すると実際に会って撮影を受けた。
サイト利用者の年齢層は不明だったが、美智代は色々検索するうちに、カメラマンは20代より30代以上の方がより落ち着いた紳士的なカメラマンが多いという噂を知って、30代以上のカメラマンを募集した。
「土屋さんに撮られるのは、さすがにちょっと恥ずかしいので。すみません」
「どうしてですか? ちょっと待ってくださいよ。これも何かの縁じゃないですか。ルールは守りますよ」
ルールというのは、モデルがカメラマンに対して提示できる決まり事で、カメラマンはそれに合意した上で撮影に臨むのが一般的のようだった。
美智代の場合、カメラマンに撮影中は体への接触禁止、商用利用禁止、ウェブサイト等への公開などを禁止、屋外露出モデルなどを不可としていた。その他、ホテルの料金や交通費の条件などもモデルが自由に提示できた。
「ギャラもきちんとお支払いします。撮らせください」
「ごめんなさい。ちょっと、やっぱり今回はやめておきます。別にお金に困ってやってる訳じゃないんです」
そう言ってから、しまったと思った。
思わず出てしまった自分の言葉に美智代は悔やんだ。状況を考えれば、お金に困ってやむを得ずやっていると言った方が、そうでない理由よりはるかに無難だった気がした。ギャラ以外の理由は、美智代には若干無理が感じられた。
「つまりモデルを目指してらっしゃるということですか? 売名? モデル志願がメインで、ギャラは問題じゃないということですか?」
「そういう意味じゃ、ないですけど……」
「とにかくここでお話していても何だし、ホテル行きましょうよ。誰にも言いませんよ、私。誰にも見せたりしませんよ。ルールはきちんと守るし」
「ごめんなさい。やめさせてもらいます。失礼します」
「撮影しないなら、私はここまで来たので“モデル側のすっぽかし扱い”ということになりますけどいいですか? 私と交わしたルールが、大嶋さんの都合で一方的に破られてしまうことになるじゃないですか。」