レズビアン官能小説長編「年の差レズビアン・ディープ・ラブ」(第56話)
駐車場に出るとすぐ生ぬるい風と通りを行き交う車の音が二人を迎えた。
今夜は帰りたくないと美由紀に何度か甘えてみたが、さすがにホテルから出勤はできないと言って断られた。分かっていたが、半年ぶりのホテルでしかも初めて「愛している」と言われたら帰りたくなくなった。美由紀の腕の中で眠りたかった。
ポケットからベンツのキーをとり出して、帰りたくない気分で美由紀に投げたら変な方向へ飛んでいったが、美由紀はそれを器用に受け取った。ため息が出た。
「美由紀、らーめん食べたいって言ってたじゃん。行こうぜ」
ホテルに向かう前に美由紀が徳島ラーメンに行こうと言っていたのを思い出して、乃亜は声をかけた。美由紀はキーを差し込みながら「行きたいの?」という顔を作って覗き込んできた。
夜12時を回っていたし、開いているお店は限られていた。
乃亜は美由紀ともう少し過ごせるならファミリーレストランでも中華料理でも何でもよかった。乃亜がうなずくと、美由紀はちょっとあきれ顔エンジンをかけた。
徳島ラーメンに到着するまでの30分間、美由紀の腕にしがみついて過ごした。
信号待ちで何度かキスをねだると、美由紀は顔を向けてちょっといやらしいキスをしてくれた。乃亜はうれしくて思わずにやけた。美由紀は優しかった。
「いらっしゃい! あ、この前の」
徳島らーめんの店内は混んでいた。若い男の子のグループや背広姿の男、それにカップルの姿が目立った。店に入ってすぐ店主と目が合って、おもむろにグーをしてくれたから乃亜もグーをして返した。
美由紀は腕を組ませてくれたが、ちょっと照れ臭そうな笑みを浮かべていた。
「あたし豚骨にする。美由紀は?」
「んじゃ、塩にするか」
ラーメンはすぐ来た。
美由紀とどんぶりを交換しながら食べるラーメンは格別だった。
「乃亜、さっきから何回も電話ブルってるけど、大丈夫なのか?」
乃亜はうなずいて見せて、塩ラーメンが食べたいと交換してもらった。
電話はホテルに入って三度確認した。
一度目は紗弥からの仕事のメールで例のデータチェックの連絡だった。PDFデータが添付されていて、期待通り可愛く仕上がっていた。二度目以降は佐藤からのメールだった。添付ファイル付きのメールが一通と他にもう一通届いていた。
三年間、その素顔を見抜けなかった自分に少し悔いて画面を閉じた。
乃亜はスマホをポケットにしまうとラーメンを黙々と食べた。
佐藤は俗にいう色男で、それを楽しむように仕事に打ち込んでいた。話口調や身のこなし、デキる自分に酔い痴れる男だった。別れ話のもつれでケンカをしたときに、佐藤が自らそんなことをほのめかして、乃亜は初めてそれに気づいた。ようするに装うことが醍醐味で、仕事はできたが典型的なナルシストだった。
会社に不利益はないが、個人的に付き合うべきでない相手だった。モノにすると地が出た。