レズビアン官能小説長編「年の差レズビアン・ディープ・ラブ」(第38話)
澪がえびの殻を剥いていたら紗弥が帰ってきた。
「ただいま!」
紗弥は玄関からまっすぐキッチンに入ってきて、澪のすぐ横に立つと、ボールに入ったえびやあさり、ムール貝、イカ、タコを見て目を輝かせていた。澪は紗弥のその表情に満足してにこっと笑った。
「今夜は、魚介たっぷりペスカトーレビアンコだよ」
「わ、最高! ローストビーフも買ってきたよ」
「ありがとう! 今夜は景気づけパーティーだ」
「おいしそう」
フライパンにオリーブオイルを引いてニンニクを入れたところで、着替えを終えた紗弥が横に来て一緒に手伝ってくれた。紗弥は手際がよくて、びっくりするくらい気が利いた。12年間の阿吽の呼吸はもちろんあったが、もともと魚を捌くのが上手だったり、リンゴの皮を包丁で剥いたり手先も器用で、同じことをやったら紗弥のほうが早かったし、調理しながら後片付けのことまで考えて何でも効率よくできる紗弥が羨ましかった。
「かんぱーい」
食卓テーブルにはローストビーフとペスカトーレビアンコ、それにプチサラダバーと料理で使った白ワインのグラスが並んだ。紗弥は景気づけにとローストビーフを1キロも買ってきてくれた。絶対食べきれないよねと二人で爆笑して、とにかく食べられるだけ食べようとがんばって、白ワインが空くと缶ビールも飲んだ。
お祝いパーティーや景気づけパーティーは二人の間では恒例の行事になっていて、フラれた場合も振った場合も、“男との交際が途切れたとき”に二人で盛り上がることにしていた。
一番最初は、数年前に澪がフラれて落ち込んでいたときに、紗弥がドライブに連れ出してくれたことからはじまった。
フラれた翌日は日曜日の朝で、澪は外出したくないと頑なに拒んだが、紗弥がしつこくドライブに誘うから半ばケンカ状態で助手席に乗った。どこに行っても何を見ても気が紛れない自信があったし、紗弥の気持ちはうれしかったが、まだ翌日なのにそっとしておいて欲しいという気持ちのほうが強かった。
紗弥は海辺を走ってくれた。
窓を開けると潮の香りとカモメの鳴き声がして、水平線がただどこまでも続くのどかな風景に、彼と過ごした日々がどんどんフラッシュバックしてきて急に涙が込み上げてきた。泣いているところを紗弥に見られたくなかったから、窓の外を眺めているふりをして泣いた。でも涙があまりにも止まらなくて、もうダメだと思った。それからすぐにシートベルトにしがみついて、思わずむせび泣きしてしまった。もう何がなんでもどうでもよくなった。
そんな時、紗弥が車を路肩に止めて、無言でリアシートのティッシュ箱をとって手渡してくれた。
ティッシュを渡されて紗弥がいることを思い出して、せっかくドライブに連れ出してくれたのに大泣きしてごめんねと言って紗弥の顔を見たら、なぜか紗弥も泣いていた。それからティッシュを一枚出して「気持ち分かるよ」と言って涙を拭ってくれた。
紗弥の涙を見たらまた涙が止まらなくなって、それからしばらく路肩の車の中で二人で泣いた。