レズビアン官能小説長編「年の差レズビアン・ディープ・ラブ」(第16話)
「さあミユキ、休憩しましょ、休憩。お休みタイム」
乃亜はベッドから立ち上がってテーブルからメニューを取るとミユキの横に置いた。
外の空気が吸いたくなって、バスタオルを巻いて板張りの窓を力まかせに押してみた。
ふいに眩い日差しと高速道路を行き交うトラックの轟音が入ってきて、乃亜は目を細めた。
“ハロウィン”という割にはハロウィン要素のない部屋だなと思いながら、あらためて部屋を一望した。
ハロウィンに因んだ飾りや置物、ぬいぐるみを探したが見当たらず、そういえば部屋のドアの外側に一枚だけカボチャのシールが貼ってあったのを思い出して、乃亜はあれかと苦笑した。
ミユキがフロントに注文しているのが見えた。
「ねえミユキ、乃亜様の分注文しといてよ」
ミユキはジェスチャーでアイスコーヒーを注文したと返しているようだった。
高速道路の車が途切れると、道路わきの雑木林からかすかにセミの鳴き声が聞こえた。
乃亜は美由紀と緑地公園を歩いた日のことを思い出した。
まるで絵具で塗ったような真っ青な空の下、容赦なく照りつける日差しに乃亜が先に根負けして日陰を歩こうと美由紀に声をかけた。
それから二人で木陰を探して歩きはじめた。
遊歩道に入ると、たくさんのセミの鳴き声と木々の枝葉に包まれた深緑のアーチが二人を迎えてくれた。
ふと美由紀が時々しゃがんで何かを拾い上げて木につけているのを見て、乃亜が何をしてるのかと尋ねると、美由紀は地面で裏返って死ぬ時が来るのをじっと待っているセミを拾って木に戻しているのだと言った。
美由紀が木につけるとセミはまた上り始め、空に飛んでいくものもいた。そんなセミに美由紀はいつも笑顔でつぶやいていた。
「お前まだ飛べるくせに諦めるの早い」
乃亜はセミが苦手で触れなかったが、枝でつつくと飛んでいくセミがたしかに諦めていたようにも思えてちょっとおかしかった。
セミを服につけ、飛び立っていくセミにあと一日がんばれと手をふる美由紀を眺めながら、乃亜は不思議な女の子だと思った。
用を足しているとインターホンが鳴ってルームサービスが来たのが分かった。
乃亜はトイレを出てそのままバスルームに向かい、洗面台の鏡の前で髪を結わき直す。
ふと後ろにミユキがやって来たのが見える。
「先やってて」
「はい。乃亜様」
返事はしたものの後ろで動かないミユキに乃亜は目くばせした。
「私、乃亜様みたいなかっこいい女の人に憧れます」
ミユキはそう言うと、髪を結わき終えて振り向こうした乃亜の背中にすがりついてきた。
乃亜は吹き出した。それからミユキの手を解いて背中を押してバスルームを出た。
テーブルにはイチゴが2つのったチョコレートパフェとミルクティー、それにアイスコーヒーがあった。
乃亜がアイスコーヒーを飲んでいると、ミユキがチョコアイスをスプーンですくって乃亜に一口くれる。
乃亜はそれをもらって、窓のほうを眺めた。
セミの鳴き声は聞こえなかったが、時おり心地いい風が入ってきて、気分が少し紛れているような気がした。