レズビアン官能小説長編「年の差レズビアン・ディープ・ラブ」(第35話)
「そう、分かった。でも、もうこっちの電話にかけてこないでね」
電話の向こうの男は語気を荒げていたが、乃亜は冷静だった。
「何のために会うのよ。未練がましい男が嫌いなの」
「ほかを当たって。うん、それはお互い様じゃないの」
「だったら辞めれば? もう話すことはないの」
「うん、そ。もうこっちの電話にかけてこないでね」
「切るね。そう決めたの。そうよ。もちろん私が。うん、じゃあ。切るね」
乃亜は一方的に電話を切ると、スマホをベッドに置いた。
乃亜は会社を経営していた。
メインは電話相談の会社で、9年前にワンルームマンションの一室で乃亜が一人で始めた。行き当たりばったりの商売だったが、通話料金と人件費のみの小資本で回せそうな気がした。初めて電話が鳴ったときはびっくりしたが、それから少しずつ入電数が増え、ワンルームマンションからメゾネットへ、メゾネットから戸建てへ、そしてビルのオフィスへと会社を拡げていった。途中、何度か窮地を迎えたが、その時にアドバイスや資金繰りをして経営を支えたのが別れた男だった。
男に恩はあった。野心家で頭が切れ、7年間会社を支えてきた。事業拡大には貢献したし、社内の女性スタッフにもそこそこ人気があった。
根本的な間違いは、乃亜が言い寄られて交際したことだった。軽率だったことに後で気づいた。プライベートは浮気性の遊び人で、酒癖が悪く、時には乃亜に暴力をふるうこともあったため、何度か大喧嘩をしたが、その都度改心すると言ったため乃亜も許してきた。
付き合い始めてすぐに都内のマンションで同棲を始め、きっかり3年で乃亜から別れを切り出した。「3年」は乃亜の恋愛のルールのようなものだった。お互い結婚を口にしなかったから別れた。
それから乃亜は一人、郊外のマンションで一人暮らしを始めていた。
物件は東急田園都市線の沿線で探した。
会社で物件探しを依頼するいつもの不動産会社に探してもらった。これまで営業部長の白石に専属で依頼していたが、口癖の「すこぶるいい物件」の質が落ちてきたため、過去に二度担当してもらった営業の男の子に直接話をもちかけた。築年数や外観より、窓からの眺めがいい物件を探してもらった。間取りは2LDKでエレベーター付きの適度に高層階の空き物件を依頼した。
「了解っす。筧さんの好みは熟知っす」
一見、チャラ男系のお調子者の営業君は名前を桜井といった。若さゆえの鉄砲玉のような男の子で、おそらく客にも家主にも可愛がられるタイプの一生懸命さが好感だった。何も言わなくても家賃交渉をしてくれたり、家主にエアコンをつけるようアドバイスをしたり、先に足を運んでメールで現地の画像を送ってくれた。休日、家主に「おいしいリンゴがあるから食べにおいで」と誘われて、遊びに行った結果、管理物件が2棟とれたという話も聞かせてくれた。桜井に物件探しを依頼するのは3回目だが、物件のメリット、デメリット、建設会社や配管設備のメンテナンス、家主の性格など、素人が見逃しがちな話題も交えて話してくれるため、乃亜は今回も桜井に期待して名指しで依頼した。
「桜井君、今度もお願いね。いい物件見つかったら飲み行こうか」
「マジっすか! 飲むの好きっす!」