レズビアン官能小説長編「年の差レズビアン・ディープ・ラブ」(第27話)
「おい、やけに風呂長いな。のぼせてないか?」
脱衣所から夫の声がして水川由美子はふと我に返った。
「ええ、たまにはちょっとのんびり長湯でもと思って。大丈夫ですよ。もう寝てくださいな。」
由美子がエリーゼの代理店を始めて15年が経過していたが、“お客様”とトラブルになることはあっても、こんなトラブルは初めてだった。
忌々しいトラブルは数えるほどはあったし、トラブルというわけではないが男性なのにスリップやブラジャーを注文する変な客も中にはいた。ただ今度のように、明らかにトラブルで胸騒ぎがするのに、対処のしようが思いつかない事態は初めてだった。
何が事実でそれをどう解釈して、誰に何を謝り、自分の何がいけなかったのか、どこで道を踏み外してしまったのか、考えれば考えるほど頭が混乱する一方で、最後に中谷彩佳が見せた穏やかな満面の笑みを思い返すと、少し安堵できる自分がいてまた複雑な気持ちになった。
今日はあれから仕事をする気が失せて、店を閉めて自宅で物思いに耽って過ごした。そこに夫が帰ってきて、いつも通り夕飯を出して片づけをして、夫には昨日と何も変わらない妻を見せた。
夫に話そうとも少し考えたが、到底話せる内容ではなかった。躊躇した。潔白は晴らしたかったが、どこまでが潔白で、自分のどこに手落ちがあったのか、人にうまく説明できるほど頭の中は整理できていなかった。誰が味方で誰が敵なのかも明確ではなかった。長く一緒にいる夫には気づいて欲しかったが、平静を装う自分の演技が上手かったのか、夫はもう自分に興味がないのか、もし興味がないとしたら自分がまず怒られてしまう事態なのか、それとも味方としてなだめ怒り、いっしょに考えてくれるのか、由美子にはまったく予測できなかった。
結局、また考えれば考えるほど頭が混乱して、でも最後に彩佳が見せた笑みを思い出すと、何もトラブルはなかったのかとも思えた。
“中谷彩佳様”はD70のカーネーションピンクのブラジャーとショーツを買われた。とても気に入って“らっしゃった”
違和感を感じたが事実だった。
今日は新たにパープルのセットを2つと、カーネーションピンクのセットもう1セット追加注文された。
これも事実だったし、喜んでご注文頂いた。
でもその直前にオーガズムに達してしまった。8年ぶりのオーガズムだった。
クリトリスを触られ、我慢できなくなって逝ってしまった。彩佳は裸のお付き合いだと言ったが、そんなお付き合いを過去にしたお客様はいなかったし、正しいお付き合いでは決してないと思った。でも自然な流れだったと思えた。
芝居だったとしても彩佳の口車に乗せられた自分に非があることは明白だったし、結果、あの状況でクリトリスのような敏感な部分を触られ、触っていたら、きっとほとんどの女性がオーガズムに達すると思った。
裸で向き合ったことがいけなかったが、そこからは先は記憶を辿ると気分が悪くなった。自責の念で嫌になり、後ろめたい気持ちにいても立ってもいられないほど汚らわしい自分と向き合う必要があった。それだけはどうして嫌だった。
“ 嫌、絶対にいや。 ”