真由美は拓海とあの場で少しやり取りを交わしたきりで今度の件はほかに誰にも話していない。
「それで撮った画像はまだみんなが見られるような状態になってるわけ?」
リビングのソファに座る拓海に紅茶を出しながら真由美が切り出す。
「はい、でも消しますし、みんなにも削除するように言いますので」
申し訳なさそうな表情を浮かべて頭を下げる拓海に、真由美は
「友達の間に出回っちゃってる画像、全部見せて」
と拓海のすぐ右隣に座って詰め寄る。
画像はすべてこの家の中で撮られたもので、胸元やお尻の画像が沢山混じっているものの顔には落書き程度だが消しが入っている。
写り込んでいる家具やカーテンから知る人が見れば誰の家かは分かるが、知らない人にはどこの誰だか分からないようには一応してあるようだった。
「こんなの撮らないでよ」
真由美が気になったのは衣服にくっきりと浮き出たショーツやブラジャーの線を狙って撮った画像の数々で、恥ずかしいやらみっともないやらでため息しか出てこない。
またそれらを息子の同級生の拓海に
「こんなのも」
と拡大して見せつけられている状況に言葉では表現できない何とも異様な空気を感じた。
「これ全部、あなたが撮ったの?」
真由美が尋ねると拓海は少し興奮した様子で
「はい、おばさんがきれい過ぎて我慢できなくて……」
と答える。
若いしまだ社会経験も少ない拓海がお世辞交じりに申し訳なさそうな顔をしているのが可笑しくて、真由美は軽く吹き出しながら
「削除してね。もう撮らないでね」
と念押しした。
でもその直後、ふと視界にあるものが飛び込んできて真由美は思わずたじろいだ。
拓海は街でよく見かけるロードバイクに乗る人が身に着けるサイクル用の黒いパンツを穿いていたが、その股間の部分が異様なまでに膨らんでいて、またその尖端部分に水滴のようなものが付着して濡れ光っている。
パンツの生地を内側から力強く押し上げるものとその尖端に滲ませるものが何であるかはロードバイクについて何も知らない真由美にもすぐに分かった。
真由美があっけにとられて目を離せないでいると拓海がその視線に気づいて
「あっ、す、すみません……」
と素手で粘液を拭う。
真由美はソファテーブルの角に置いてあるティッシュを一枚差し出したが、それからお互い無言になって気まずい空気が流れた。