官能小説(短編)/童貞? 家族不在の夜に息子の友達と
夫が出張で留守の日に限って息子の雅也(まさや)が友人宅に泊まりに行くと言い出して夕方五時過ぎに家を出て行った。
出張は一週間ほど前から聞いていたが、雅也の外泊は直前に明かしたため久しぶりにのんびり過ごせる時間ができたものの何となく持て余してしまっていた。
リビングの時計を見ると午後七時を少し回っている。
「もう少し早く言ってくれれば適当に予定入れたんだけどなあ」
雅也は二十一歳になるが無計画なところと思いついたように突然いなくなるところが夫によく似ている。
啓子は食卓テーブルの椅子に腰かけて何となく取り残されたような自分を笑うしかなかった。
普段なら夕飯の支度を終えている頃で後片付けなどでキッチンをいそいそと動き回っている時間である。
「何しようかしら」
テレビのニュースは北陸地方の積雪を報じている。
無趣味な自分が可笑しかった。
趣味と呼べるものは一応あったが家事の合間にふと手をお出せる観葉植物の手入れや読書がせいぜいで、今夜のような突発的な余暇をフルに活かせるような都合の良い趣味などは持ち合わせていない。
ここ数年を振り返ってみてもこの時間帯に何か自分の予定を入れた記憶がない。
もう少し明るい早い時間なら思いつきでフラっと外出もできるのにと苦笑していると、不意にスマホが鳴った。
雅也からの電話である。
「どうしたの?」
「あのさ、コウスケが車のルーフキャリア取りに行くから俺の部屋の入ってすぐのところに立てかけてあるやつ、渡しといてくれる?」
電話口のすぐ傍で笑い声が聞こえ後ろに男の子が数人が騒いでいるのが分かった。
「銀色の長いやつのこと?」
啓子が尋ねると
「うん、長いけど軽いから。悪い」
と言って雅也は電話を切った。
コウスケというのは武田孝輔(たけだこうすけ)のことで、雅也の親友で背の高いちょっとイケメンの同級生である。
小学校から高校までずっと一緒に上がった仲で時々家に遊びに来たり何度か泊りに来たこともある。
雅也は帰宅部だったが孝輔は小中高とサッカー部に所属していた。
そういえば孝輔が何時に来るのかうっかり訊きそびれてしまったことに気づいて、啓子は時計を見つめながらため息を洩らす。
かけ直そうか迷ったが何するでもない時間が自分にはしばらくあることを思い返して、啓子はテレビに目を戻しながら食卓テーブルにスマホを置いた。
こういうタイミングでかけ直すと夫も雅也もぶっきらぼうな口調で返してくる。
啓子は立ち上がると二階の雅也の部屋に向かった。
ピンポーンッ
午後八時を回ってすぐに孝輔はやって来た。