「じゃ、じゃあ、うん。一緒に寝るだけね」
秀美は半ば押し切られる形でやむなくといった仕草を大げさに見せて、ため息まじりに応じた。
「わあ、ありがとう。大好き」
時計は日曜日の午前二時半を指している。
秀美は内心少し穏やかではなかったが、子供のように可愛がってきた弥生が初めて見せる悲観した表情に、何とも言えない気持ちに駆られて放ってはおけなくなってしまった。
「朝、私と一緒に起きて伽奈の部屋に戻ってね」
「うん」
笑顔を取り戻した弥生に秀美は安堵した。
はじめは添い寝だったが、左に寝ていた弥生が右に寝返りをうってからは向かい合わせで秀美の腕の中にいた。
体を寄せ過ぎているように思えて秀美は体を少し後ろに引いたが、弥生もそれに合わせて体をくっつけてくる。
その姿は愛らしく秀美の母性本能をくすぐったが抱きしめてあげてよいものかためらわれた。
ふと伽奈も外でこんなことをしていないかと考えたり、もし一緒に寝たいと言い出したらどうしようと思いを巡らせていると、弥生から体を密着させてすがるように抱きついてきた。
弥生は心地よさそうに秀美の胸に顔を埋めているが、秀美は鼓動が高鳴って指先までやり場に困る。
「おばさん、抱いてあげようか?」
身を寄せる姿がやはり可愛くて秀美が声をかけると弥生はこくりとうなずく。
その体を抱くと、弥生が
「お母さん」
と呟いて、秀美は思わず体を強ばらせる。
秀美から「お母さんだと思ってね」と冗談まじりに声をかけたことはあったが、弥生にお母さんと呼ばれたことはない。
少し不憫に思えて腕に力が入る。
抱き締めると弥生は小柄な体をぎゅうっと密着させてくる。
腕の中にその息づかいが感じられて可愛かった。
「弥生ちゃん……」
娘の同僚という関係上、もし伽奈が部屋に入ってきたらどうしようと戸惑いつつも、バーベキューで一緒にかけ声を上げたり手をつないで山を登った記憶を思い返すとやはり放ってはおけない。
目が冴えて眠りにつくどころではなくなっていたが、久しぶりに子供をめいっぱい抱き締めることができたような気がして秀美も少しうれしくなった。
「うん、お母さんになってあげる。弥生のお母さんだよ」
その背中をぽんぽんと叩きながらまたぎゅうっと抱き締めて弥生の髪に唇を押し付ける。
「時々お母さんって呼んでもいい?」
弥生の言葉に秀美はうなずくとその頬を撫でた。
時計の針が午前四時に差しかかる頃、弥生がもぞもぞと動き始めて
「お母さん、ねえ、おっぱいしてもいい?」
と呟いた。