官能小説(短編)/年下の同性愛。告白する? もしかしたら——
恰好つけたがりのボーイッシュな凌空(りく)が可愛かった。正確にいうと恰好よくてイケメンで、おそらく男性からも女性からもモテた。
凌空とは勤め先の出版社の倉庫で知り合った。
愛海(まなみ)は、凌空と二人でバーコードスキャナーを手に、書籍の入った段ボール箱に仕分け用のシールを貼り付けたり、その段ボール箱を運ぶアルバイトの男の子たちに指示を出す業務を任されていた。
凌空は八つ年下の26歳で、ショートボブで目がきりっとした女性だった。
映画「バウンド」のG・ガーションを思わせるメンズファッションを好んで身に着け、休日は迷彩柄のカーゴパンツやレザージャケットにジーパン、それにアクセサリーをたっぷり付けて登場した。
スレンダーで身長が170センチ位あって、一緒に歩くと、色んな意味で周囲の目を釘付けにした。職場には内緒だと苦笑していたが、背中には大きな般若の面のタトゥーが入っていた。更衣室で見たそのタトゥーには、凌空の憧れや強い意志のようなものが感じられた。
凌空はアルバイトの不手際で作業が滞ると率先して手伝いに回って、重い段ボール箱を運んだり、フォークリフトを器用に操作して荷物を動かした。
そんな凌空にレズビアンであることを明かされた。それを口にしなくても、男性ホルモンのいいとこ取りをしたようなボーイッシュっぷりに愛海はすでに夢中になっていた。
体つきは見るからに女性的だったが、男気すら感じさせる凌空に、愛海はそれが同性愛であるという自覚がないまま惹かれていった。
プライベートで何度も会った。
最初の頃は職場の同僚、あるいは三年長く勤めている愛海と先輩後輩という距離感を保ったような外出だった。愛海は当初からデートと呼んでいたが、凌空に恋してからはそれがデートであると信じて疑わなかったし、時々腕を組んで歩きながらそれとなく甘えたりもした。
凌空の魅力はたくさんあった。一緒にいるとまるで男役を買って出るかのように重い荷物を持ってくれたり、車の運転を代わってくれたり、また悩み事や相談なども親身になって聞いてくれた。女が男性に抱く理想を体現するかのような凌空が、愛海にはスマートで自然で、めちゃくちゃ恰好いいイケメンに見えた。
デートに出た日は、凌空に抱かれる妄想をしながらオナニーをした。オナニーをしているところを見られ、弱みにつけ込まれながら無理やりさせられる妄想や、街を歩いていたら不意に抱き締められてキスをされる妄想が感じた。
凌空は女性だったが、愛海には男性のようにも思えたし、時おり激しく突かれる妄想に耽って何度も果てた。ただそんな夜はアダルト動画のレズビアンセックスを観て、凌空が女性であることを自分に言い聞かせて補正した。
思いが募り始めると、正直性別はどうでもよくなった。
「あらためて言うのも何だけど、私、凌空のこと好きだよ」
「私も。愛海と一緒にいると幸せだなって思う」
凌空とは何度も会ってはいた。
でも、その後も何の進展もなかった。
そんな矢先、仕事を終えた直後の更衣室で、凌空に一通の手紙を手渡された。
「これ預かったんだけど、バイトの木本君から。あいつ仕事辞めるんだってさ」
アルバイトの木本は小柄できゃしゃな男の子で、いつも愛海と凌空の傍にいて、予備のシールを持ってきたりバーコードスキャナーを修理してくれる頼れる子だった。
手紙はA4サイズのコピー用紙を手のひらサイズに小さく折り畳んでセロテープで留めたもので、広げてみると、木本らしい小さな文字で何やらびっしりと走り書きされていた。