官能小説(短編)/コート一枚で露出。スリルと罪悪感と感じるセックス
「やば、人多過ぎ……緊張してきた。興奮するけど、さすがに恥ずかしいかも……」
小川志乃(おがわ・しの)はあまりの人の多さに思わずたじろいだ。
甲斐武流(かい・たける)は運転席で神宮のマップを見ながら笑顔で頷く。
「外周をぐるっと一周歩きながら夜店で遊んでさ、東門から境内に入って本宮に向かう。で、お参りな」
志乃は33歳で武流は五つ年下の28歳。
二人は大晦日の夜、年超しデートの足で県内でも有数の神宮に初詣に来ている。
武流とは、フリーランスの志乃が打ち合わせで出向いた会社で出会った。交際を始めて三年目になる。
「恥ずかしい。バレたらどうしよう……ついて行くけど手つないでくれる?」
「うん。人一杯だから手離したら迷子になるぞ」
武流は眼鏡をくいっと上げるとふいに肩をぎゅっと抱いてキスをしてくれた。武流がいつもつけているソヴァージュの香水がほのかに香る。
「行こ」
車を降りてすぐに武流が手を握り締めてくれる。
「寒くないか?」
「これねすっごく暖かいの、ありがとう。寒いのは足だけ」
全裸に一枚だけ羽織ったその黒いコートは武流がいつも愛用しているお気に入りのロングのダウンコートで、志乃がいつも着込んで出かける普段着よりも身軽で暖かい。
それに内ポケットにカイロがいくつも入っているせいでぽかぽかだった。
「そうか、よかった。じゃあ出発」
「どうしよう、恥ずかしい……こんなことしていいのかな……」
「俺がついてるから。ずっと一緒、離れるなよ」
今まで人気の少ないサービスエリアや道の駅で試したことはあったが、初詣でコート一枚となると段違いに足がすくんでしまう。
「ちゃんと隠れてる?」
志乃は体を一回転させて不自然ではないかを武流に確認してもらった。
「サイズが気持ち大きいかな。でも悪くない、可愛いよ」
武流は笑って言った。
「あ、そうだ! 武流、明けましておめでとうございます! 今年もよろしくね!」
「そうだったな。明けましておめでとうございます! あはは」
駐車場を出るとすぐに色とりどりの夜店が二人を迎えてくれた。所せましと立ち並んでいる。
歩道は学生のグループや親子連れ、夫婦やカップルの姿であふれ返っていて、寒空の下にもかかわらず大賑わいだった。
前を行く武流の背中を見失わないようにその手を握るとぎゅっと握り返してくれる。
「お好み焼き、りんご飴にチョコバナナ、たこ焼きや焼きそば、それにお面に綿菓子」
提燈やのぼりの文字を読み上げると武流が立ち止まって「いるか?」と笑顔で尋ねてくれる。
志乃は首を振って代わりにその腕にしがみついた。