官能小説(短編)/男はなぜフェラが好きなの? フェラ嫌いの女性の主張
付き合って約束の三か月が経過しても踏み出せない私に、彼は苛ついているようだった。
「そのうち慣れてきたらして」
「でも多分、慣れないと思う」
「二人でできるように頑張ろう」
付き合い始めて間もないまだ“それ”について気づかいや遠慮があった頃、彼は優しく「そのうち」と言ったが、私はそれを否定した。その時は「慣れないと思う」と答えたが、本当は「しないことに慣れて」と言いたかった。
彼はフェラチオが好きだった。
好きだということはつまり、経験があり、誰か別の女性にくわえてもらった結果、それが好きなったということだ。その光景を想像するのは咎めたが、セックスの過程でフェラチオという行為が世間に広く浸透していることは知っていた。でも私はどうしてもペニスを口に含むという行為が受け入れられなかった。
嫌々かあるいは無理をすればという努力とか、愛情の問題ではなく嫌だった。拒絶の意思を明確にもっていた。
ただそれについて話せば、大抵の場合、そんなことはない考えすぎだと、さも私自身に問題があるかのような指摘が返ってくることを知っていたから、明確に答えることは控えた。
話せば話すほど、言葉を返せばまたフェラチオ、フェラチオ、フェラチオのことばかり聞かされた。
根ほり葉ほり尋ねられるのもうんざりだった。
「どこが嫌いなの?」
「何が嫌なの?」
「臭くないよ?」
フェラチオをしたくない理由を問われても、必要性がないと答えるのが自分らしい気がした。世間は「愛しているのならくわえてあげれば?」とか「彼への愛が足りないのでは?」と言ったが、それは私ではなく世間の意見であって断じて私の意見ではなかった。
“つまり、私がくわえれば、フェラチオをすれば、すべてが丸く収まるの?”
必要性の有無にかかわらず、努力で解決することは他のことは何でもしてきた。
本音をいえば、性器を舐められる行為にも抵抗があった。ただ「舐めるのは止めて」という言葉が適切なのか、それを発するタイミングはいつなのか、それについて考える時間が与えられぬまま始まってそれを口にすると、途端にペニスが萎えた。
つまり男女の交際にはセックスが付き物で、その過程においては互いに性器を舐め合う行為がついて回り、それを拒めば関係性に亀裂が生じるのかと真剣に悩んだこともあった。