触れてくる手が二つあることからその男は手ぶらか、あるいはバッグを足元に置いているのだろう。
明らかに両手の感触があった。
万由子はその手から逃れようと何度か身じろぎをしたが、わずかにできたその隙間を埋めるように男は体を密着させてくる。
男の両手は万由子のスカート越しのお尻にべったりと張りついていて、指先だけが這い回っていた。
万由子はすでに逃げ場は失っていた。
前に立ちはだかる背広姿の男性客は背を向けていて、右の男性も左の男子学生も万由子の方を向いてはいなかった。
万由子は目を閉じて、電車が一刻も早く次の駅に到着することを願った。
(早く……、早く……)
都心部に向かう電車が駅に停車するたびに空くわけなどない。
万由子の願いも空しく状況はより悪化しつつあった。
その手は駅に到着すると消えたが、発車するとすぐにまたべったりと張り付いてくる。
しかも手つきは次第に大胆になっていった。
電車が六つ目の駅を発車した直後、その手はスカートの中に入り込んできた。
万由子はストッキングを穿いてこなかったことを悔やんだ。
ショーツはお気に入りの紫色のTバックを穿いてきた。
それを痴漢に触れられていることが嫌だった。
ほぼ丸出しのお尻を二つの手のひらが這いまわり、時おり弄ぶかのように左右にぐっと広げた。
今までの痴漢とは明らかに異なる大胆な手つきに万由子は次第に怖くなった。
乗る前からすでに狙われていたのか乗ってから目をつけられたのか、またいつから触られていたのか、いつまで続くのか考えれば考えるほど、頭をめぐらせるほどに怖くなった。
行きずりの犯行なのか、もしかしたら以前から目をつけられていたのではないかと想像してゾッとした。
(やめて……お願いやめて……、こわい……)
右側の手がお尻の割れ目を伝って股間に入り込んでくる気配があった。
指を立てて割れ目の深部をなぞりながら徐々に股間に忍び寄ってくる。
万由子は咄嗟にお尻を閉じてそれに抗ったが、抵抗も空しくすぐに陰部を真下から触られた。
ショーツ越しの割れ目を下から指で押し上げてくるような手つきだった。
押し上げられるたびに万由子は自分自身が嫌になった。
気分を上げる日に穿くお気に入りのTバックを行きずりの痴漢の指で汚されている。
しかも怯えているはずの自分が、こともあろうにショーツのクロッチを濡らしてしまっていたことに気づいて愕然とした。
その指は割れ目を真下から押し上げるように何度もくり返し触れてきた。
万由子はそのたびにショーツの不快な濡れを痴漢に再確認させられているようで気分が悪くなった。
恐怖で委縮しきった体が思うように動かない。
その身勝手で汚らわしい指づかいをまるで受け入れているかのように立ち尽くす臆病な自分が嫌だった。
気を引き締めるために穿いてきたTバックが無残にも濡れてしまっているさまが許せなかった。