官能小説(短編)/レズな痴漢の物語
「どうかされましたか? 大丈夫ですか?」
沙耶香(さやか)が声をかけると女性は顔を上げて微笑みながらこくりと頷いた。
女性は二十代前半位で黒のダウンジャケットにタイトな黒のミニスカート、それに高めのヒールブーツを履いて足元にバッグを置いてしゃがんでいる。
自宅からほど近いそのコンビニエンスストアは国道1号線沿いにあり、夜九時を回るこの時間帯でも比較的車の出入りが多くすぐ近くに二十四時間営業のマクドナルドや深夜営業のスーパーなどがあるため女性が一人しゃがんでいても不思議ではないようにも思えたが、その表情がどこか寂しそうで沙耶香は思わず声をかけた。
女性は頷いたが沙耶香が車を止めて店内で買い物をして出てくるまでの間、すでに二十分位座り続けている。
もしかしたら誰かと待ち合わせをしているのかも知れないが、待ちぼうけをくらって途方に暮れているようにも見えて
「寒いし良かったら車に乗りますか?」
と声をかけてみた。
「ありがとうございます。大丈夫です」
女性はていねいにそう言うと、少しうつむき加減で座り直して顔を逸らす。
世間は大晦日で年越しイベントなどで盛り上がる夜に浮かない顔でそう言われるとお節介だとは思いつつも気になってしまう。
時おりひざを抱えたり両手のひらを口に当てて息を吹きかける姿に、沙耶香は後ろ髪を引かれる思いで運転席に座ってはみたものの車を出すのをためらった。
車に乗り込んで十分が過ぎてもなお座ったままでいる女性に沙耶香はたまりかねて再びコンビニエンスストアに入ると、おでんを適当に二人分買って女性のもとに走った。
「おでん、一緒に食べましょうよ」
見ず知らずの女性をおでんに誘うのもおかしな気がしたが、エアコンなしでは車内ですら寒いのに外の吹きさらしでうずくまる女性にもはやなりふりなどはかまっていられないし、仕事帰りでどのみち家で作ることを考えたらたまにはコンビニのおでんでも良いかと思った。
「え? ありがとうございます。わ、美味しそう」
一番大きなパックに大根、ちくわ、卵、それにこんにゃくと牛すじ串などなど沢山入れてきた。
パックを一つ手渡すと沙耶香も女性のすぐ横に肩を並べてしゃがみ込む。
「ちょうどお腹が空いてて一人で食べるの寂しいから誘っちゃった」
沙耶香の言葉に女性はうれしそうにパックを覗き込んで
「いただきます」
と牛すじの串を指でつまんでぱくっとくわえた。
「待ち合わせしてたのね。で、その人はまだ来ないの?」
女性は二十三歳で真彩(まあや)といった。