レズビアン官能小説長編「年の差レズビアン・ディープ・ラブ」(第9話)
地図アプリでは目的地まで徒歩5分とあったが、途中でドラッグストアとたこ焼き屋に寄らなければならないことを考えると、20分位はかかりそうな予感がして澪は会社に一報を入れておこうと思った。
「もしもし、芦名澤です。あと20分位です」
「はい、お疲れ様。気を付けてね」
レジの行列に並んで精算まであと一歩というところで食品の追加依頼が入って、一度売り場に戻ってまた並び直したために余分に時間がかかってしまった。
澪は女性限定ショッピング代行サービスの会社に勤めていた。知り合いの紹介で設立と同時に入社して、今年で勤続5年目だった。
料金体制は基本料金3,300円に別途利用料1時間ごとに3,300円。料金は当時社長と澪が決めたもので、社長も在籍スタッフもみんな女性、澪はスタッフの取りまとめ役を任されていたが、今日は2名の欠員が出たためその代わりに走っていた。
スーパーの袋はそこそこ重かったが、それより駅前のたこ焼き屋の混み具合のほうが気になった。
おいしいと評判だったが、紗弥が焼いてくれるその名も「おいしいたこ焼き」にはかなわない気がして、一度も買ったことがなかった。
角を曲がったところでたこ焼き屋とドラッグストアを一望すると、たこ焼き屋に三人の客が並んでいるのが見えて、澪は先にドラッグストアから済ませようと思った。
ドラッグストアの店内も混雑していたが、ショッピングかごを急いでとって目薬と生理用品、それからキャットフードを入れてレジの行列に走った。
会社に戻ると、社長が冷えた緑茶を手に迎えてくれた。澪はそれを一口飲んでから手早く入力作業を済ませて、ホワイトボードに走った。
18時を回ってスタッフが帰りの支度をしている姿を遠目に眺めながら、澪は久しぶりにバタバタした一日を振り返って軽い溜息をついた。
「芦名澤さん、お疲れさまです」
「お先に失礼します」
「みんなお疲れさま。明日もよろしくね」
ホワイトボードに明日朝一番のスケジュールを書き終えて、澪も帰る支度をした。
着替えを終えて会社を出たときには20時を少し過ぎていた。
東急田園都市線に乗り換えたところでSNSアプリの着信音が鳴って、あわててマナーモードに切り替えた。着信音で画面を見るまでもなく相手が誰だか分かったが、気分が乗らずいつもより少し疲れていたせいもあって、澪はメッセージを見るのはやめた。
立っていた車両出入り口のすぐ横の座席が空いて、澪は座った。
駅を降りて改札口の階段を下りて行く人の姿を目で追いながら、そのままプラットホームのベンチに座った。しばらくすると辺りは静かになった。
バッグを覗くとスマホのランプがチカチカと光っているのが見えたが、もう一方のスマホだけを手に取ってバッグを閉じた。さっきからずっと振動していた。
空を見上げて深いため息をついた。
紗弥からメッセージが入っていた。
“冷蔵庫にプリン発見! 食べてもいーい?”
“迎え行こか?”
澪は軽く吹いて「プリンどうぞ。迎え来てほしいな」と返した。しばらくして紗弥から20分後に駅裏のタクシー乗り場に着くとのメッセージが返ってきた。
プラットホームであと15分くらい時間をつぶそうかと思ったが、ひっきりなしに振動していたスマホが静かになったのと、トイレに行きたくなって立ち上がった。
階段を下りて改札口手前のトイレに入った。
澪は紗弥にまた「澪は見る目がない」と言われるかなと思いながらちょっと苦笑した。
紗弥がいてくれるおかげで寂しくなかったし、また明日もがんばろうと前向きなれた。おっちょこちょいで騒がしくて、気分屋のところもあったけど、澪には唯一の頼れる存在だった。
紗弥の元気いっぱいの後押しがなかったら今の会社にも入っていなかったし、会社のルールや料金体制も提案できなかった。
嫌なことがあっても、紗弥のメッセージを読むだけで必ず元気になれた。
澪は立ち上がってショーツを上げようとして、スマホの時計に目をやった。9時33分だった。
すぐ上で電車がプラットホームに入ってくる音が聞こえてきた。
澪はロングワンピースの裾をたくし上げて、手早くアソコを弄った。声が出ないように口をつぐんで息を止めた。
「ぅ……っ」
一瞬時間が止まったように軽く意識が遠のいて、それからすぐに通路を歩く乗客の足音が聞こえてきた。
目が覚めて、体が少し軽くなったような気がした。仕事のストレスや憂鬱なとき、嫌なことを忘れたいときに時々オナニーをした。“あの子は家でしてるのかな”と紗弥のことを思い浮かべながらショーツを上げた。
改札口を抜けてタクシー乗り場に向かうと、紗弥の車がすぐに見えた。
助手席の窓から中を覗き込むと、紗弥が運転席でスマホのパズルゲームに悪戦苦闘しているのが見えた。
「澪ぴょん、お疲れちゃん!」
紗弥はいつもの笑顔で澪を迎えてくれた。
“紗弥ありがとね”
澪は心の中でそうつぶやきながらドアを閉めた。