「水川と申します。わざわざご足労いただきまして有難うございます」
由美子は彩佳の向かいのソファに座り、ショコラ色のショーツを2枚とエリーゼのパンフレットをテーブルの上に並べた。それからすぐにもう一人の女性がアイスティーを持ってやって来た。
「いらっしゃいませ。樋口と申します」
女性の名刺には“マネージャー 樋口綾子”とあった。彩佳は名刺を受け取りながらほくそ笑んだ。
「よろしくお願いします。中谷と申します」
由美子がショーツのサイズについて説明し始めた。ショーツはごく普通のフルバックタイプで、ウエストまわりだけレースをあしらったシンプルなデザイン。艶やかな生地で手触りはさらっとしていて、伸縮性があるかなり深めのショーツだった。
「普段Mサイズを穿かれてらっしゃる女性でも、実際にサイズを測ってみると、適正サイズがLだったりすることが意外と多いんです」
彩佳は普段、下着は通販サイトを利用することが多く、あまり装飾のないシックなものを商品レビューなどを参考に適当に購入していた。
近所のショッピングモールで買うこともあるが、ブランドのショップは買い物客の通りが多すぎて何だか面倒くさいから、低価格で素材重視のアパレル全般を取り扱うようなお店で定番商品を購入するのがせいぜいだった。
由美子はメジャーを見せて彩佳に採寸をすすめてくれた。友達は三か月一回のペースでサイズを測っていたが、面倒くさがりや彩佳はここ二年くらい測っていない。
「こちらの試着室へどうぞ」
彩佳は由美子に招かれるまま試着室に入った。
由美子は手にサイズなどを記入するための小さなシートとボールペンを持っていた。由美子に促されるままに彩佳はブラウスとスカートを脱いで、鏡の横にあるかごに入れた。
話すのが上手だと思った。ちょっとしたリラックス空間で、下着の大切さやショーツのこだわりなどについて高い理想や着用効果などには触れず、あくまで彩佳の目線でゆっくりと分かりやすく、雑談などを交えながら話してくれた。それがマニュアル通りなのか、それとも彩佳に客としてあまり期待を寄せていないのかは分からなかったが、嫌味がなくて販売熱心で話を聞いてくれないうりうりな店員さんでないと分かってちょっとほっとした。
警戒心が解けて由美子と綾子の分析を終えたところで、あらためて鏡に映る下着姿の自分に目をやって、それから天井を見上げて軽く深呼吸をした。あまり意味のない葛藤を覚えるのはいつものことで、もう一人の自分が軽く疼いているときは、成りゆきまかせのほうがこれまでも万事上手くいってきた。
由美子は手際よくバストとウエストのサイズを測り終えると、彩佳のお尻の前にしゃがみ込んだ。
“いっそうのこと脱いじゃえば?”
彩佳は変態アヤカのささやきをすぐにかき消して、迷ったあげくネイビーカラーのショーツを両手で思いきってぐっと引き上げた。股間が一瞬ひんやりとしてお尻に強い締めつけ感が走った。手のひらでお尻の肉がどれくらいはみ出ているかを確認しながら、鏡で由美子の表情をうかがったが、物足りなさを感じて足ぐりのゴムがもっとお尻に食い込むように指で寄せ、そのまま軽く半歩下がって由美子の顔にお尻を近づけた。
「あ、そのままで大丈夫ですよ」