官能小説(短編)/電マオナニーの不感症。誰かと一緒なら治るかも——
「じゃあ、今までのセックスは全部演技だったんだ?」
隆也(たかや)が語気を強めてまくし立てる。
「全部じゃないよ」
ヘアゴムで髪をしばりながら咲(さき)が返す。
三年ぶりにできた彼と付き合い始めて半年が経過したある日、ベッドの上でその口論は始まった。
セックスの前戯の最中に枕元でスマホが鳴ってふと真顔で目をやったら隆也が
「電話が鳴った瞬間のあの表情、ほんと冷める」
と不満を洩らしたのがきっかけだった。
演技なのかと何度も畳みかけられたため、咲はため息まじりに
「時々そういうこともある」
と答えた。
経験値が低いというか理想主義というか隆也の純粋無垢な部分が裏目に思えることがことセックスにおいては多すぎて、少なからず体の相性の悪さは感じていた。
そもそもそんな言葉を返すつもりはなかったが、そう言えと言わんばかりの隆也の詰め寄りに半ば折れた感じだった。
それを言えば傷つくと思ったしセックスが今よりさらに水っぽいものになることは容易に想像できたが、認めなければ疑心暗鬼になってしまうとほのめかしたため仕方なく認めた。
「ショックだね、もう無理だ」
「何が無理なわけ?」
「もう終わりにしよう。セックスは俺的に重要だから」
そう言い残すと隆也は足早に出て行ってしまった。
隆也は三つ年上の三十歳で、これまでもセックス以外の些細なことで口論にはなったが、その表情と一方的に出て行ってしまうという行動から今回ばかりは修復不可能な気がした。
思わず深いため息が洩れる。
ただ、演技の頻度は人によるだろうが咲には隆也ばかりを責められない理由が一つあった。
それは不感症だということ。
その原因が何であるかも咲自身分かっている。
電マ——
咲が一人暮らしを始めた四年前、当時付き合っていた彼に使われたことがきっかけで、ただ当てるだけで何度でも逝ける電マのあまりの気持ち良さに虜になり、彼に内緒で自分専用の電マを購入して、それからはほぼ毎日のようにクリトリスに当てて逝くようになった。
咲の場合、電マを当てると二、三分で逝けるのだが、それ無しではクリトリスでは決して逝けない体になってしまっていた。
触れば一応性感は得られるものの、ぐっとこみ上げてくるような感覚は電マでなければ味わえない。悩むほどではなかったが、そのせいでセックスなどの前戯では性感が物足りず、以前よりはるかに退屈な時間になってしまっている。
ひと言でいうと感じるというよりは心地いいレベルだった。
ローターでは微妙に逝けず、指や綿棒、歯ブラシもだめ。電マ無しではオーガズムが得られない。
アダルト動画のように立て続けに何度も達しているうちにクリトリスが不感症になってしまっていた。
「へえ、別れたんだ。あんなに彼氏デキたってよろこんでたのに」